名人づくしの地域が学び舎 vol.1

山・森が近い会社員として働く農業に携わる林業に携わる起業(農家民宿含む)自然の中で子育て芸術・創作活動ができる自分でつくり・育てる(野菜・米)

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歌声響く学び舎を囲んで
手を取り合う里山の人々

京丹波町竹野(きょうたんばちょうたけの)地域

移住について考える時、特に小さな子どもを持つ若い世代にとって「子育て環境」は重要なテーマ。周りにどんな人が暮らし、どんな学校があり、子どもたちがどんな風に育っているのか。これらを見極めて、移住を決めたいという人も多いのではないでしょうか。

そんな皆さんにご紹介したい地域がこちら。京都府のほぼ中央部に位置する京丹波町竹野地域です。京都縦貫自動車道丹波インターチェンジに程近く、京都市内まで車で1時間弱という場所にありながら、山々に囲まれた美しい田園風景に出合えるこの地域では、近年、子育て世代を中心とした移住者が徐々に増えています。利便性の良さに加えて、地元の小学校を中心に据えた地域ぐるみの活動が実を結びつつあるのです。

「地域の宝」を育む竹野の里

京丹波町立竹野小学校は、明治6年に開校した地域が誇る伝統校。平成3年に建てられた、木の温もりと優しさが感じられるデンマーク風の木造校舎も地域の自慢です。そして、地域の人が最も大事にしているのは、ここに通う子どもたち。平成29年現在、全校児童はわずか28人となっていますが、一人ひとりを「地域の宝」ととらえて、その成長を見守っています。

「この辺りの人は、登下校中の子どもを見かけたら、わざわざ車を停めて『おはようさん』『おかえりー』って声をかけたり、農作業の手を止めて手を振ったりするんですよ。どの子もみんな『竹野の子』だからです」

そううれしそうに語るのは、竹野地域の住民自治組織「竹野活性化委員会」の事務局長を務める金延英樹(かねのぶひでき)さん。20年前に家族を連れて京都市内から移住し、わが子を竹野小学校に通わせていた金延さんは、地域の人々の子どもに対する温かなまなざしを常に感じ取ってきました。小学校を軸にした地域活性化が図られたのも、そうした土壌があったからだと感じています。

「平成14年に学校週5日制が導入された時、当時の区長さんたちが『地域で子どもを育てようやないか』と、土曜日に子どもを集めて、もちつき大会や焼き芋大会などのレクリエーションを行うサタデープラン事業を始められたんですね。それがずっと続いていた一方で、子どもの数が減少し、運動会などの学校行事も寂しい状況になって、地域ぐるみで学校を支えようという機運が高まった。そこから竹野活性化委員会が形づくられていったんです」

合言葉は「とりあえずやろかいな」

そもそも竹野地域は、少子高齢化の問題のほかに、区長など地域の役員が毎年変わるために地域の課題が先送りになるという問題を抱えていました。そこで金延さんたちは、継続性を持って課題解決に取り組む組織の必要性を感じ、町役場の協力も得ながら組織立ち上げに向けた勉強会を実施。そして、平成24年4月に竹野活性化委員会準備委員会を結成しました。

さらに自治組織立ち上げの機運醸成に向けて、6月に映画上映会を、9月に竹野小学校地域合同大運動会を開催しました。合言葉は「とりあえずやろかいな」。過去に自治組織の立ち上げを検討したものの、細かなルールづくりが壁となって実現しなかったという話を地元の先輩たちから聞いていたため、ルールづくりは後回しに、場づくりを重視したのです。

その結果、上映会には約200人が、運動会には300人以上が詰めかけ、大変な盛り上がりを見せたそう。「人口860人程度の地域でそれだけの人が集まるのはすごいことですよ」と、金延さん自身も驚いたほどです。今や運動会の名物行事となっている“聖火リレー”もこの時から始まりました。

「ちょうどロンドンオリンピック開催時期と重なったことから、『子どもたちに聖火を見せてあげたい』と当時の校長先生から相談があり、地元の葛城神社で起こした火を小学校までつなぐ聖火リレーをやることになりました。子どもにトーチを持たせるのは危ないだろうと、初めのうちは大人だけで行っていたのですが、やはり体験させてあげたいという思いもあって、安全に留意することを条件に、高学年の子どももリレーに参加できるようにしました」

2つの行事を通じて手応えを感じた金延さんたちは、組織体制などに関する協議を重ね、平成25年6月、竹野活性化委員会を正式に発足させました。そして、「地域が抱える問題をみんなで解決しよう、地域の宝を育てよう」という思いを共有し、「とりあえずやろかいな」の精神でさまざまな事業を実施してきました。

発足間もない頃から続いている「竹野サロン」もその一つ。休止状態になっていた農産物加工施設「京都・丹波食彩の工房」を一部改修して喫茶スペースを作り、毎週木曜に地域のお年寄りが気軽に集えるサロンを開いたのです。

「根っこにあったのは、地域のお年寄りを笑顔にしたいという思いです。黒豆茶やコーヒーと一緒に『場』を提供しているだけなのですが、毎回60人くらいが来てくれて本当に賑やかですよ。小学校もこの取り組みを応援してくれていて、月に1度、子どもたちが歌や劇を披露したり、一緒にゲームを楽しんだりと仲良く交流しています。学校にまでは行きにくいという人には、このサロンが大事なふれあいの場になっているんです」

高齢者率が3割を越え、一人暮らしのお年寄りも増えている竹野地域。竹野サロンはお年寄り同士の交流を深めるとともに、見守り機能も果たすようになったそう。例えば、急に誰かが来なくなったりすると、「最近見いひんなぁ」「何かあったんやろうか」「ちょっと訪ねてみようか」という風に気にかけ、以前にも増して、お年寄り同士で支え合う姿が目立つようになったというのです。

また、竹野サロン開設とほぼ同時期に、しばらく途絶えていた敬老会が復活。区長会と共催で年に1度「多恵の(たけの)里をしゃべろう会」を開催し、地元の人がいろいろな出し物を繰り出して、お年寄りを笑顔にしているそうです。

名人づくしの地域が学び舎

多恵の里をしゃべろう会や竹野活性化委員会総会など、地域住民が集まる催しが行われるのは概ね土曜日と決まっています。平成24年度に竹野小学校が、土曜日を活用した教育活動(土曜活用)のモデル校に指定されたのを受け、それまで保護者を対象としていた学習発表会をオープンにし、家庭に小学生のいない人も、地域行事のついでに立ち寄ってもらおうと考えたのです。

特に、竹野小学校が全校を挙げて力を注いでいる音楽の学習発表会「音楽のつどい」は大好評で、むしろこちらをお目当てに来る人も多いのだとか。「上手やなぁ」「若返ったわぁ」といった感動の声は、子どもにとってよい刺激になっているようです。その点について、日下部進(くさかべすすむ)校長にうかがいました。

「大勢の人が喜んでくれる様子を見て、子どもたちは大きな達成感を抱くようになりました。それがその他の学校活動の意欲向上にもつながっていると、そばで見ていて感じます。地域と学校の双方にとってプラスになる、好循環を生み出すことができました」

これと合わせて、普段の授業にも地域の人が関わるようになっています。地元のぶどう農家や米農家、読書家などを「ゲストティーチャー」として招き、出前授業をしてもらったり、子どもが仕事場を訪ねて体験学習をさせてもらったりと、教科書いらずの課外授業が続けられています。これまでにお世話になった地元の人はおよそ50人。それぞれを「◯◯名人」「◯◯博士」と名付けて、誰がどこに住んでいるのかが一目でわかる顔写真入りの地図が学校の掲示板に貼られています。

「まさに地域すべてが学びの場ですね。いろんな技能や知識を持った大人の方から学ぶことによって、子どもは豊かに育つのではないかと思います。地域の子どもをわが子のように育ててくださる、皆さんの温かいお気持ちに感謝するばかりです」

小規模学校の長所を伸ばして

竹野小学校の校舎の軒下には、「窯作り名人」の力を借りて卒業生が作ったパン窯も。これも、金延さんたちが興味本位で竹野地域の陶芸家のパン窯づくりを手伝ったことが契機となった「とりあえずやろかいな」の一例です。「出来上がった窯で焼いたピザがめちゃくちゃおいしくて、これは竹野小学校でやらなあかん!と、卒業記念に6年生と一緒にパン窯作りをさせてもらったんです」。完成後の試食会には、子どもたちのほか、保護者や地域住民など約50名が集結。地元産の野菜や黒豆をのせた熱々のピザをみんなで頬張り、卒業と完成の喜びを分かち合ったそうです。

実は、パン窯を囲んで卒業生を送り出した平成27年度。竹野小学校の児童数は、過去最も少ない27人に減少していました。そのままでいけば、今年度はさらに一人減る見込みでしたが、子育て世代の移住者のおかげで前年度と同じ28人をキープすることができたそう。

この流れを加速させるべく、竹野小学校と活性化委員会は昨年から今年にかけて計3回、学校見学説明会を開催。参加した家族に対して、これまでの地域連携の取り組みと合わせて竹野小学校の魅力をアピールしています。そこで日下部校長が述べているという、「竹野小学校で学ぶ意義」についてうかがいました。

「少人数ゆえのデメリットはもちろんありますが、それ以上のメリットがあると私は感じています。例えば、体育の授業では人数が少ない分、待ち時間が少なく済み、通常より多く練習ができます。また、国語や算数などの教科でも教員の目が一人ひとりに行き渡りますから、一人だけ置いていかれるといったこともまずありません。

一般的に小規模学校は、切磋琢磨や相互啓発がされにくいと言われますが、教科によって2学年合同で学んだり、学年を超えて一緒に遊んだりする中で、下級生は上級生に追いつけ追い越せで頑張るし、上級生は良い見本になろうと努力するんです。学習発表会に一度お越しいただければ、よくわかると思います」

続けて、「中学、高校への通学が大変になるのでは?」という質問を投げかけたところ、こんな頼もしい答えが返ってきました。

「ご安心ください。竹野地域からは外れますが、自転車で15〜20分の範囲に蒲生野(こもの)中学校、須知(しゅうち)高等学校があり、卒業生が多数そちらに進学しています。バスと電車を乗り継いで、京阪神の大学へ自宅から通っている子も結構いますよ」

歓迎された喜びをつなげたい

日下部校長が目指すのは、複式学級解消のボーダーラインである児童数40名を超えること。「その目標に向かって、引き続き地域のみなさんに協力していただきながら、新たに入ってこられる方、前からいる方も含めて、今後も家族的な付き合いを続けていきたい」と語ります。

竹野活性化委員会もまた、移住促進に向けた新たな取り組みに乗り出そうとしています。

「今まさに準備を進めているのは、最近移住して来られた方のための歓迎会。僕たちの歓迎の気持ちを表して、1日も早く地域に溶け込めるようにしてあげたいんです。それから、空き家対策や雇用の場づくりも本格化させたいですね。雇用に関しては、今、新しい特産品の開発に取り組んでいるところなので、そこから仕事が生み出せれば、と考えています」

最後に、金延さんと日下部校長に竹野地域の魅力についてうかがうと、口を揃えて「ウェルカムなところ」と答えてくれました。金延さんに至っては、移住した20年前からその印象を持ち続けています。

「よう来たなぁと言って、お野菜をくれたりして本当にありがたかったですね。だから僕は特別なことをやっているつもりはなくて、先輩方にやっていただいたことを次の人に向けて返しているだけ。それが結果的にこの地域を守ることにつながるのではないかと思っています」

 

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