田舎と都会のいいとこ取り vol.1

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府内唯一の村で叶える
田舎と都会のいいとこ取り

南山城村押原(みなみやましろむらおしはら)地域

京都府内にたった一つだけ、「村」があることをご存知でしょうか? 京都府の東南端、滋賀県、奈良県、三重県との県境に位置する南山城村です。村の大部分は山林で占められていますが、谷間や丘陵地に広がる茶畑をはじめ、夢絃峡(むげんきょう)や月ヶ瀬湖といった清流が生み出す幽玄の美、緑あふれる童仙房高原など、起伏に富んだ地形が織り成す自然の表情は実に多彩です。

そんな豊かな自然環境に魅せられて、村へ移住するU・Iターン者が増加中。陶芸家、料理人、家具職人などクリエイティブな活動を展開する人から、京都市・大阪市の中心部まで1時間半の地の利を活かして、職を変えることなく田舎暮らしを満喫する人まで、暮らし方も十人十色です。中にはすっかり地域に溶け込んで、地元の人たちから頼られている移住者もいると聞き、その地域を訪ねてみました。

そば栽培の取組が移住促進の呼び水に

「この集落が回っているのは、移住してくれた方たちのおかげ。本当に助かるなぁ」「うん、私ら年寄りだけでは厳しいもんなぁ」。そう語り合うのは、村の東寄りに位置する押原地域の区長・押元良浩さんと副区長・吉村俊哉さん。

現在、21世帯60人弱が暮らす地域のまとめ役として尽力されているお二人が口を揃えて感謝を述べる移住者とは、移住して8年の小林博明さんと5年の藤田敬さんのこと。特に小林さんは仕事の第一線から退いていることもあり、あらゆる地域活動で「大車輪の働き」を見せているそうです。一体、どのような経緯で小林さんたち移住者を迎えることとなったのでしょう。
  

「田舎暮らし体験プログラムという村の取組がありまして、その中に含まれる押原のそば体験に小林さんがたまたま参加してくれたんです。種蒔きから始まって、収穫、そば打ちまで5回ほど足を運んでもらう中で、小林さんの人となりもわかってきたので、空き家が出た時に『どうですか?』と安心して勧めることができました」

今や地域と移住者をつなぐ場として機能するそば体験ですが、もともとは農地を維持管理するための取組で、移住促進につながるとはまったく想定していなかったそうです。

「15年ほど前、押原を含む村内3地域が中山間地域等直接支払制度の対象地域に選ばれました。平たく言えば、国と自治体が農業生産活動にかかる費用の一部を負担するから、ちゃんと地元の農地を守ってくださいね、という内容です。それで地域ぐるみで何か作物を作ろうと、農家の高齢化が進む中、なるべく手間のかからないものがいいだろうということで、そばに決まったんです」

事前に説明会を開き、住民の理解と協力を求めたものの、仕事や年齢的な問題もあり、継続的に参加できた住民はわずか7、8人。「人手が全然足りなくて、ほかの地域から人を呼んで、なんとか乗り切っていました」。そんな状態が数年続いた後、村内に田舎暮らしの促進会議が立ち上がり、田舎暮らし体験プログラムとして広く参加者を募るようになったのです。

「募集人数は年によって多少変動しますが、概ね10〜20名くらいです。つい先日も平成28年度の最終回がありまして、参加者の皆さんとそば打ちを楽しみました。小林さんなんて初心者から始めたのに、今では玄人並みの腕前ですよ(笑)」

もう一人の移住者で陶芸家の藤田さんは、押元さんらのリクエストを受けて、そば体験の空き時間に陶芸のワークショップを開いてくれたそう。その時の作品をうれしそうに眺めつつ、「藤田さんみたいに一芸を持った人が移住してくれたら、また何か面白いことができそうですね」と期待感を口にする押元さん。小林さんや藤田さんという心強い味方を得て、ほかの地域に負けてはいられないと意気込んでいます。

「体験プログラムには高尾という地域も参加しているんですが、昨年からメインの黒豆大豆に加えて小豆も作り始めて、そちらに人気が集中したんですよ。これはイカンということで、うちも来年からそば以外の作物もやろうかと検討しているところです」

のんびり気質の地元民に芽生えた積極性

それを隣で聞いていた副区長の吉村さんは、「押原の人間がこんなにガッツを見せることって珍しいんですよ」と笑います。聞けば、押原地域の人たちは他地域の人から「のんびりしてるなぁ」とずっと言われ続けてきたそうです。なぜ、のんびり気質なのか。押元さんに理由を聞いてみました。

「江戸時代にこの辺りを開拓したご先祖さん以来、7、8代にわたって住み続けている旧家が今も複数残っていたり、あまり大きな変化がなかったせいですかねぇ。確かにガツガツしたところがなくて、定年後は好きなことをして暮らそうという人も多いように感じます。商売っ気がなさ過ぎるとか、いろいろと言われますけど(笑)。まぁ、それも押原の良さかなと」
 

地元出身者が語る暮らしのメリット・デメリット

かく言う押元さんも開拓時から続く旧家のお生まれで、かつては大阪市内の職場まで車と電車を乗り継いで通っていました。その経験も踏まえて、「押原は住みやすい」と胸を張ります。

「まず国道163号線が近いので、どこへ行くにも便利です。私の場合は、木津川市のJR加茂駅の近くに車を停めて、大和路快速1本で大阪駅まで通っていたんですけど、慣れたら1時間半なんてあっという間です。普段の買い物も国道163号線を使えば、三重県の伊賀上野まで20分で行けますし、生活全般で特に不便さを感じたことはありませんね」

ちなみに、押元さんが真っ先に言及した国道163号線は、平成28年8月の北大河原バイパスの開通により、さらに利便性がアップしました。吉村さんも「この道のおかげで、娘が暮らす大阪市内まで1時間半で行けるからめちゃくちゃ便利」と絶賛します。

交通の利便性のほかにも、「夏涼しい」「雪はめったに積もらない」「雲海が立ち込める早朝の景色もいい」「ご近所のおばあちゃんが野菜を分けてくれる」などなど、アピールポイントが続出。そこで、あえてデメリットも尋ねました。

「村内に総合病院がないことですね。伊賀上野の総合病院が一番近いのですが、村内でも地域によって木津川市や滋賀県の甲賀市が近い場合もあるので、事前に調べておいたほうがいいと思います。それから公立・私立含め高校がないので、子どもさんがおられるご家庭は、通学圏の高校について調べておくといいでしょう。まぁ、どこにどんな病院や学校があるかぐらいは私たちも知っているので、遠慮せずに聞いてほしいです」

デメリットがないとは言えないものの、それらをカバーするだけの交通アクセスの良さ、そして自然や人の大らかさを享受できる押原地域。どのような人が移住して来て欲しいと考えているのか、また地域をどのように発展させていきたいか、率直な思いを語っていただきました。

「やはり地域の一員としてそば体験や消防団の活動などに積極的に参加してくれる人に来て欲しいですね。もちろん、できる範囲でよいので。私個人としては、区長であるうちに、国道沿いの耕作放棄地を整備する方向づけをしたいと考えています。それがかなえば、農業をやりたいという移住者の方に畑をお貸しして、作った野菜などを道の駅(平成29年4月新規開業予定)で販売することもできますし、地域の活性化にもつながると思うんです。そうした埋もれた資源を掘り起こしながら、皆さんと手を取り合って、押原を元気にしていきたいですね」

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